2025(令和7)年度は以下5テーマについて研究を実施しています。
(1)気候変動による外力の増加に対する流域治水のポテンシャル検討
「流域治水」を効果的に実施し、今後の浸水被害発生の頻度・規模を軽減させるため「流域治水」のポテンシャル検討を行います。さらに、具体的な地域を対象に気候変動外力により増加する水害リスクに対して適切な流域治水施策の導入について検討を行います。
(2)岐阜県の水稲栽培における高温障害発生予測に関する研究
① 出穂後20日間の平均気温に基づく高温障害の将来予測
水稲の登熟期における白未熟粒の発生率は、27度以上で急増します。オープンアクセスとなっている気候変動シナリオに基づき、2100年までの岐阜県内での白未熟粒の発生リスクのマップ化を行います。
② 夜温の水稲に与える影響評価
夜温の上昇による水稲の収量・品質の低下が報告されています。農業技術センターや中山間農業研究所に数十年にわたって蓄積されている収量・品質のデータを元に夜温と収量・品質の関係性をモデリングし、その影響の定量化を行います。
③ 主要品種の高温による出穂、登熟期、収量への影響評価
以上の他にも、病虫害のリスクや生育期間の短縮など、生育期間にわたって高温による悪影響は複合的に存在します。②と同様のデータを用いて、気象条件と出穂・登熟期や収量への影響をモデル化し、岐阜県における主要なリスクの特定を行います。
(3)気候変動のアユへの影響と適応策の検討
岐阜を代表する水産資源であるアユの生活史や資源量への気候変動(特に温暖化)がもたらす影響の把握とその適応策について、行政や漁協のほか飲食・観光・文化など様々な関係者とともに検討します。
研究資金制度を活用した「水防災・農地・河川生態系・産業への複合的な気候変動影響と適応策の研究」(2020-2022)(環境研究総合推進費【2-2004】)では、国内で把握されつつある水温上昇が、長良川流域においてはアユの分布及び生活史に明瞭な影響を及ぼしており、渇水・猛暑時には長良川鵜飼の区間を含む約20kmからアユが姿を消すという過去にない形で顕在化していること、秋季の水温上昇はアユの産卵降河を約一か月遅らせており、再生産を含む生活環全体に影響が及んでいること等を把握しました。
本研究では、アユ産卵期のうち翌春の遡上に寄与する産卵時期を特定するため、流下仔魚調査,耳石分析を行います。調査結果をもとに再生産に寄与する集団を規定する環境要因についてモデル構築します。前課題で検討した水温-魚類分布モデルの発展を軸にしつつ、アユの餌資源となる河川一次生産(藻類活性)の経時変化のモデル化を検討します。
(4)岐阜県の森林における炭素吸収能およびそのポテンシャルの評価に関する研究
リモートセンシング技術や生態系モデリングの活用による森林炭素吸収量や炭素吸収量のポテンシャルを広域評価し、岐阜県の森林炭素吸収能について検討します。その際、岐阜県内に重点研究領域を設定して、岐阜県や岐阜大学が保有する LiDAR データやフィールド観測に基づいた森林炭素蓄積量データを活用することで、森林炭素吸収量および森林炭素吸収量ポテンシャルの推定の精密化・高度化を図ります。
(5)暑さ指数WBGT観測に基づく基礎的検討と熱中症リスク分析
暑さ指数WBGT観測システム(岐阜大学に設置予定)により、暑さ指数WBGT及び局地気象の連続観測を行います。岐阜大学の気象予報士3名が「岐阜大学が発信する愛知県・岐阜県の局地気象予報」を運営しており、数値気象モデルとの対比、WBGTの予測等につなげるための基礎的な観測を開始しました。 さらに、昨年度まで実施してきた熱中症搬送者数に対する分析についても整理し、県庁との情報共有を図ります。