2024(令和6)年度は以下6テーマについて研究を実施しています。
(1)気候変動による外力の増加に対する流域治水のポテンシャル検討
「流域治水」を効果的に実施し、今後の浸水被害発生の頻度・規模を軽減させるため、「流域治水」のポテンシャルについて検討します。そのため、過去の浸水実績により、対策が必要な地域を抽出し、そのうち、地形状況等から気候変動影響の受けやすさ、貯留機能の高さ等を検討する他、人口・資産の集中度等から「流域治水」を実施する際に効果の高い地域を選定します。
(2)田んぼダムの治水活用検討
関市黒屋地区における田んぼダム(水田貯留)のモデル事業に並走し、田んぼダムのモデル化、田んぼダムの運用に伴い懸念される営農への影響の検討、気候変動外力の評価、これに対する田んぼダムの効果等について、総合的な検討を行います。
(3)気候変動のアユへの影響と適応策の検討
岐阜を代表する水産資源であるアユの生活史や資源量への気候変動(特に温暖化)がもたらす影響の把握とその適応策について、行政や漁協のほか飲食・観光・文化など様々な関係者とともに検討します。
研究資金制度を活用した「水防災・農地・河川生態系・産業への複合的な気候変動影響と適応策の研究」(2020-2022)(環境研究総合推進費【2-2004】)では、国内で把握されつつある水温上昇が、長良川流域においてはアユの分布及び生活史に明瞭な影響を及ぼしており、渇水・猛暑時には長良川鵜飼の区間を含む約20kmからアユが姿を消すという過去にない形で顕在化していること、秋季の水温上昇はアユの産卵降河を約一か月遅らせており、再生産を含む生活環全体に影響が及んでいること等を把握しました。
本研究では、アユ産卵期のうち翌春の遡上に寄与する産卵時期を特定するため、流下仔魚調査,耳石分析を行います。調査結果をもとに再生産に寄与する集団を規定する環境要因についてモデル構築します。前課題で検討した水温-魚類分布モデルの発展を軸にしつつ、アユの餌資源となる河川一次生産(藻類活性)の経時変化のモデル化を検討します。
(4)温暖化に伴うクリ品種の収穫期に及ぼす影響と産地別品種マップの作成
気候変動がもたらす気温上昇により、クリの収穫期が早まることが予想されます。しかし、収穫期が早まりすぎると、需要と供給のミスマッチが起き、生産者、実需者(菓子業者等)ともに支障を来すことが予想されます。そこで、県内各クリ産地における温暖化が進行した 2030~60年頃の各品種の収穫始期を予測し、各産地において需要期に出荷できる最適な品種マップを作成し、植え替え時の品種選定等、更新計画に役立てることを実施します。
(5)岐阜県の森林における炭素吸収能およびそのポテンシャルの評価に関する研究
リモートセンシング技術や生態系モデリングの活用による森林炭素吸収量や炭素吸収量のポテンシャルを広域評価し、岐阜県の森林炭素吸収能について検討します。その際、岐阜県内に重点研究領域を設定して、岐阜県や岐阜大学が保有する LiDAR データやフィールド観測に基づいた森林炭素蓄積量データを活用することで、森林炭素吸収量および森林炭素吸収量ポテンシャルの推定の精密化・高度化を図ります。
(6)暑さ指数WBGT観測に基づく基礎的検討と熱中症リスク分析
暑さ指数WBGT観測システム(岐阜大学に設置予定)により、暑さ指数WBGT及び局地気象の連続観測を行います。岐阜大学の気象予報士3名が「岐阜大学が発信する愛知県・岐阜県の局地気象予報」を運営しており、数値気象モデルとの対比、WBGTの予測等につなげるための基礎的な観測を開始します。 さらに、昨年度まで実施してきた熱中症搬送者数に対する分析についても整理し、県庁との情報共有を図ります。